2010年5月13日木曜日

日本人が知らない アメリカ最大の「アニメSNS」

  • 米国最大のアニメファン向けコミュニティ
  • 英語圏で最大級のオンライン掲示板
  • 米国第4位のSNS (参照)
  • ネット上で3番目に大きなオークションサイト (参照)
  • Second Lifeに匹敵するバーチャル・ワールド

一部「ホントか?」という気もしますが、まあとりあえずそんな風に呼ばれているウェブサイトが米国にあります、名前はGaia Online

http://www.gaiaonline.com/

Gaia Online

Gaia Onlineは香港出身のDerek Liuという人が2003年に立ち上げたウェブサイト

元々はアニメ・マンガ関連のリンク集サイトとして始まり、やがて掲示板やチャットを盛り込んだコミュニティサイトとして成長。2008年には月間30億ページビューに到達し、現在は10代の若者を中心に2000万人以上の登録ユーザーを抱える大規模SNSとして運営されています

最も多くのユーザーが利用しているのはサイト内掲示板(Gaia Forums)で、他に、2Dのアバターキャラクターを操作して他のユーザーと交流するバーチャルワールド、アバターアイテムを売買するショップやユーザー間オークション、着飾ったアバターやイラストを投稿するアート掲示板、釣りやピンボールのようなミニゲーム、バーチャル映画館、『zOMG!』というMMORPGなど、様々なサービスが全てウェブブラウザ上で、同一の仮想通貨を使って楽しめるようになっています

英語圏最大級のオンライン掲示板

Gaiaユーザーのコミュニケーションの中心となっているGaia Forumsは英語圏「最大」或いは「最大級」のオンライン掲示板と言われています

以前4chanについて書いた時にも引用したForum Rankingsの統計では、累計書き込み数(17億件)、ユーザー数(2100万人)ともに1位。2位の4chanの書き込み数は4.6億件なので、その約4倍というぶっちぎりのトップです。 Diggの過去ログを読むと、2006年の時点で既にこのランキングトップだった事が分かります

日本の2ちゃんねるが含まれていない(一応FAQで触れられていますが)ことからも分かる通り、このランキングは詳細な統計データが公開されている掲示板のみを対象にしているため、他にもっと大規模な掲示板(例えばYahoo Boards)があるとも言われていますが、4chanやSomething Awful(10位)やSlashdot(98位)のような誰もが知っている有名掲示板を上回り、英語圏で「最大級」の掲示板の一つである事はほぼ間違いありません

仮想通貨とアバターアイテム

Gaia Online内では「Gaia Gold」「Gaia Cash」という2種類の仮想通貨が流通しています

「Gold」は掲示板に書き込んだり、イラストを投稿したり、イベントに参加するだけで加算されていく通貨で、Gaia世界に入り浸れば入り浸るほど溜まっていくという性質。それに対して「Cash」は実際にクレジットカードや携帯電話から購入したり、Gaiaが発行しているプリペイドカードから加算される通貨で、有料アバターアイテムや毎月一回更新される限定アイテムなど、Cashでなければ購入出来ないアイテムがある事で差別化が図られています

しかし課金しなければ楽しめないかと言うとそうでもなく、Cashを持っていないユーザーでもオークションを利用すれば他のユーザーからGold建てで限定アイテムを落札出来るので、オークションでは活発なユーザー間取引が発生しています (これを指して「ネット上で3番目に大きいオークションサイト」なわけですが、実態が無い仮想通貨取引のものなので、微妙っちゃ微妙)

なお、Gaiaのプリペイドカードは、iTunesカードのようにウォルマートやセブンイレブンなどの店頭でも売られていて、クレジットカードを使えない10代のユーザーでも購入しやすくなっているようです

トヨタやスクエニともタイアップ

「若者」で「アニメ・ゲームに興味がある」というユーザー属性のはっきりしたコミュニティなので広告も取り易いのか、Gaia Onlineでは過去にトヨタやスクエニなど、錚々たる企業がタイアッププロモーションを展開しています

スクウェア・エニックスは2008年に発売した『Dragon Quest Sword (Wii)』のプロモーションをGaia Online上で展開。DQSのPVを視聴したユーザーは、スライム帽子の限定アイテムが手に入りました

トヨタ自動車は、米国で若者をターゲットに販売している「Scion(サイオン)」のバーチャル・カーを2007年に配信。このバーチャル・カーは単なる置物ではなく実際にGaia Online内のカーレースゲームで使用でき、9万人のGaiaユーザーがこのScionを購入したとされています。
9万人という数字は現在の感覚ではさほど多くありませんが、これとほぼ同時期に日産がセカンドライフ上で展開した「自動車販売機」キャンペーンが、国内メディアでもSLの企業活用例として注目されたにも関わらず、僅か1万7千台の配布にとどまった事と比較すると、当時としては画期的なプロモーションでした

その他、映画『カンフー・パンダ』やアニメ『NARUTO』、最近では『スーパーストリートファイター4』でもタイアップが行われています

アニメも観られる バーチャル映画館

2007年に始まったGaia Online内のバーチャル映画館「Gaia Cinemas」では、『創聖のアクエリオン』や『蟲師』『スクールランブル』など、現在13本のTVアニメが無料で視聴出来るようになっています

米FUNimation社との契約で日本企業が直接絡んでいないためか大きな話題にはなりませんでしたが、CrunchyrollやHuluなどよりも早く、2007年の時点で日本アニメの正規配信を行っていたのは「アニメSNS」の面目躍如といった所。また、2008年にはソニー・ピクチャーズやタイム・ワーナーなどの出資を受け、一時的に『マトリックス』など実写映画の有料配信も行われていました。Gaia Onlineには既に活発な仮想通貨流通があるので、課金コンテンツの導入もスムーズに行えるんでしょうね

館内は画面奥がスクリーン、手前が観客の座席という外観で、単に視聴するだけでなく、同じ上映回に居合わせたユーザー同士リアルタイムでチャットしながらコミュニケーションを図ることが出来ます。友達と待ち合わせして同じアニメを観たり、たまたま同席したユーザーと交流するのもアリ。ほぼ同様のインターフェースでGaia VJという部屋もあり、こちらはYoutubeの動画からプレイリストを作成して鑑賞可能です

なぜ知られていないのか?

さて、このGaia Online。不思議なことに日本ではその存在が殆ど知られていません。自分もDQSのプロモーションが海外ゲームサイトで捕捉されていなければ、こんなサイトがあることすらも気付かなかったと思います

4年以上前から英語圏で最大級のネット掲示板として運営され、トヨタやスクエニも広告出稿している、しかもアニメの動画配信まで行われているアニメファンコミュニティが、なぜ日本でこんなにも知名度が無いのか?

・・・それはたぶん、本国アメリカでも殆ど無名だからです

ネットメディアですら、Venture BeatやTechCrunchがたまーに取り上げている程度で、ちゃんとまとまった記事はGigaOMくらいしか書いていません(それすら3年前のもの)。しかも多くの場合「アニメSNS」ではなく、単に「若者向けSNS」の一つとして紹介されているだけなので、これじゃあ日本人に注目されないのも無理のない話・・・。ではなんで米国メディアはGaia Onlineを無視しているのか、その理由を考えてみました

1.ユーザーが少ない

「米国第4位のSNS」&「登録ユーザー2000万人以上」

一見するとスゴそうですが、これじゃあメディアで取り上げてもらうのは難しいですよね。日本でも、mixi、GREEは話題になるけど「国内4位」のSNSなんて誰も相手にしてくれないのと同じ現象です

更に、米国には全世界で4億人以上の登録ユーザーを抱えるFacebookがあり、そのFacebookは毎月1500万人以上のペースでユーザーを増やし続けている・・・それと比較するとGaia Onlineの「2000万人」という数字はすっかり霞んでしまいます。しかも、その2000万人もあくまでアカウントの数であって、実際のアクティブユーザー数は800万人程度だと考えられているようです

2. 書ける人がいない

ユーザーが少ない=メディアで取り上げられないのかというと、これは必ずしもそうとは限りません

例えばiPhoneやTwitter、ゲームで言えばXbox360のように、実ユーザー数はさほど多くない製品やサービスでも、30代・40代のある程度社会的な発言力のある世代がユーザー層の中心に居れば、彼ら自身がメディアで発信してくれるので自然と露出は多くなりますよね。一方で、Gaia Onlineのユーザー層は10代の若者が中心で、発言力は殆ど無く、そのコミュニティを理解できる「大人」の書き手が介在しなければメディアに発信出来ません

じゃあGaia Onlineは大人の書き手の目にどう映っているかと言うと・・・以前Gamasutra系のゲームサイトGameSetWatchでGaiaが取り上げられたときの記事にはその距離感がよく現れています

(すぐクラッシュするブラウザインターフェースに、一般商業ゲーム基準から見ればショボすぎるソーシャルゲーム、よく分からないアニメ風のバーチャルワールド、そして仮想アバターアイテムに嬉々としてお金を支払うユーザー達を見た感想として)

「・・・正直言ってこれの何が楽しいのかさっぱり分からない。この奇妙な仮想空間では、26歳の自分が一番年寄りのように思える」

「あーあ(笑)」という感じですが、これはこれで非常に率直な感想だと思います。26歳で既に理解不能なほど、極端に偏ったコミュニティなんですね

// Gaiaユーザーがどれだけ幼いかについては、この記事に付けられたコメントが可笑しくて

「安心して!私はあなたより年上、29歳のGaia住人です。この歳になると他のユーザーから「ババァ」呼ばわりですが、そういうガキには大人の余裕を持って接するようにしています。ときどき「29歳?あら、あたしのママと同い年ね!」なんて言われるけどへっちゃらです!(汗」

ママが29歳って・・・「10代」どころの騒ぎじゃない!

3.アニメはニッチ

米国人記者の書いた論文を基に日本で「クールジャパン」というフレーズがでっち上げられたり、「○○というアニメが海外で人気」という風に「海外」が十把一絡げに語られてしまっているせいで、米国でもアニメはすごい人気なんじゃないかと勘違いされがちですが、実際にはいまだアニメはニッチな趣味でしかありません

もともと70~80年代から多くのアニメが放映・流通して人気を集めていた東アジアや欧州各国と違って、米国で“日本製アニメ”の存在が子どもから大人までをも巻き込んで広く社会的に認知されたのは1998年のドラゴンボールZや99年のポケモン放映以降。アニメやマンガの翻訳リリースが活発化するのは2000年代に入ってからです。つまり米国で本格的な日本アニメ市場が成立してから、実はまだ10年しか経っていません

ポケモンやDBZのコア視聴者層が当時小学生ぐらいだとすると、10年経った現在でも彼らは10代後半から20代前半の若者(4chanのmootは大学生で、まさにこの世代)、NARUTOや遊戯王は更に下の世代になります

2の「書ける人がいない」という理由とちょっと被りますが、そんなこんなで米国ではアニメファンの社会的発言力はまだまだ小さく、アニメネタ大好きな日本のネットメディアと違って、「アニメSNS」というだけでは大きく取り上げて貰えないんですね

1人のオタクと3人のマンガ家

「10代中心」「アバター課金モデル」そして「“表”のインターネットからまったく相手にされていない」と来ると、まるで日本のケータイ文化圏の話を聞いているようだし、Gaia Cinemaの「ユーザー同士でコミュニケーションしながら同じ動画を見る」というスタイルはニコニコ動画に通じるものがあってちょっと面白いですが、そういったウェブサービスとしての側面と同じくらい興味深いのが、このサイトを2003年に立ち上げた設立者たちのバックグラウンドです

Gaia Onlineのファウンダー、Derek Liu(HN:Lanzer)は、Forum Rankingsのインタビュー「オンライン上にアニメファンが200人も居ない時代から、Usenetのアニメグループに入り浸っていた」と語っている筋金入りのネットユーザーで、90年代にはAscend、Lucentといった通信大手でエンジニアとして働きながら、コミケやコミティア、ワンフェスに参加するため何度も来日していたという筋金入りのオタク。自分のサイトでジョイスティックの自作方法を公開しているGeekyなゲーマーでもあります

WikipediaやCrunchbaseでGaia Onlineの項目を調べると、そんなDerek Liuのほかに、Long Vo(VO)Josh Gainsbrugh(L0cke)Charles Park(CP)という3人の共同設立者の名前が載っています。実はこの3人の本業はプロのコミックアーティスト。マンガ家です

右(→)の絵を見ても分かるように、日本のマンガスタイルに影響を受けていた彼らは、Derek Liuと共にStudio XDという独立系マンガ家集団を結成。一緒に共同生活を送りながら、マーベル、DCといった大手出版社の仕事をこなし、オリジナルマンガも出版していたそうです

このStudio XDでの活動がほぼそのままGaia Onlineの前身になっていて、彼らの後からStudio XDに参加したアーティストのKidkoum Visarutvanit(Saka)さんも、Gaia OnlineのNPCキャラクターやポスターデザインを描いています

Gaia Onlineはさながらマンガ家たちが作り上げたSNSなんですね

ちなみにGaiaのアーティストは他所でも意外なところで活躍されていて、Sakaさんは北米唯一の“エロマンガ雑誌”『COMIC AG』の表紙を毎号描いていたり、VOさんはカプコン作品のコミカライズで知られるUDON Comicsで『スト4』のコミックスなどに参加しているほか、UDONが制作協力した『Super Street Fighter II Turbo HD Remix (XBLA/PSN)』では、ゲーム開発スタッフの一員(Lead Artist)として昨年ファミ通にインタビューされたりもしています

現在は低迷中・・・

とまあポジティブな話題を主に書きましたが、実際問題として現在のGaia Onlineは結構伸び悩んでいます

最盛期の2008年頃には一日あたり100万件あった掲示板の書き込みも、今は多くて一日60万件程度で、4chan(70万件)に追い付かれてしまっているし、Gaia Cinemasの実写映画配信も終了(アニメは縮小しながらも辛うじて継続)。AlexaやQuantcastのウェブ統計を見てもここ1,2年は明らかに下降線を描いていて、メディアで取り上げられる機会もめっきり減ってきています

2008年当時の米国第3位、欧州では最大のSNSだったBeboですら閉鎖されるというFacebook独り勝ちの時代に、Gaia Onlineの先行きも決して明るいとは言えないかも知れません。それでも、オタクが立ち上げ、マンガ家が描き、アニメファンたちが形成したこのコミュニティが、日本で知られないままフェードアウトしてしまうのは残念なので長々書いてしまいました。おわり。

// 以下は今回のエントリを書くきっかけというかGaiaを思い出すきっかけになったGaia7周年動画。微妙に貧乏臭いけど、こんな会社なのかーというのが分かると思います