PSP GoがUMDを廃止してダウンロードに特化したり、Xbox360も旧作のダウンロ-ド供給を始めたりと、いよいよゲームのDL配信が本格的に始まろうかという昨今。そのDL配信に早くから取り組んでいたWiiWare/XBLA/PSNといった各社のプラットフォームでは、現在、個人・少人数規模の独立系デベロッパーが大活躍しています
そういった「海外インディー盛り上がってる話」は国内メディアでも何度も報告されているし、ゲーム自体も日本語版が出たりして一定のプレイヤーを獲得しているものの、DL配信そのものが大して盛り上がっていない国内ではまだイマイチその熱気が共有されていなくて、これはもったいない・・・という事で、この辺りで改めて、最近ヒットを飛ばした海外インディーゲーム制作者・制作チームの活躍をまとめておこうと思います
インディーゲームとはいってもゲーム好きなら名前くらいは聞いたことのあるだろうゲームばかりなので既出の話も多くなりますが、そこはまとめということでご勘弁。どちらかというと制作サイドの話メインなのでゲーム自体については貼っつけた動画や参照リンク先を見てネ
The Behemoth
代表作: Alien Hominid [FLASH/PS2/GC/XBLA] Castle Crashers [XBLA]
受賞歴: IGF 2007: Innovation In Visual Arts & Audience Award / Xbox Live Arcade Award: 2008 Game of the Year (Castle Crashers)
中心人物: Tom Fulp (デザイナー・プログラマー) Dan Paladin (アーティスト)
概要:
1995年開設の大手FLASHポータルサイト Newgrounds.com を根城にするゲーム制作集団。Newgrounds代表・管理人でもあるプログラマーのTom Fulpと、FLASHアニメーターのDan Paladinが共作したFLASHゲーム『Alien Hominid』のPS2/GC移植版で2004年に商業デビュー。『Castle Crashers』は商業2作目に当たる
Newgroundsというバックボーンもあり、ネット上での知名度は抜群。それに加え、コミコンやPenny Arcade Expo(PAX)といった現地のヲタイベントにも積極的に参加・出展しており、コアゲーマー層から絶大な支持を集めている
実際、Castle Crashersの制作がアナウンスされたのも2006年のコミコンなら、XBLAでの配信日(2008年8月27日)も去年のPAX開催(8月29-31日)に合わせていたりと、ウェブサイト主体でありながらリアルイベントを大事にしているのが特徴的
(今年のコミコンの様子→http://vimeo.com/5877268)
Castle Crashersは配信2週間で25万DLを突破し、そのままの勢いで2008年のXBLA年間販売本数トップの座を獲得(※Major Nelson調べ)、今年に入ってからはアカウントベースで「プレイヤー100万人」も達成した
家族で一台の360本体を共有していたり、サブアカでプレイした場合の人数も含まれているので、実売ではまだ100万本未満とはいえ、UNOやボンバーマンといったバンドル版や移植モノではないオリジナルタイトルで、しかもDL配信としては比較的割高な1200MSP(≒15ドル/1800円)という価格帯でもミリオンクラスのヒットを生み出せる事をXBLAで初めて証明した
小ネタ:
- The Behemothがコミコン・PAXへの参加に積極的だったり、自作品のファンを大事にしているのは、元々Tom Fulp本人がそういったファンコミュニティの空気に慣れ親しんでいた為。Newgroundsのサイト自体、彼が学生の頃に発行していた『New Ground』というファンジン(同人雑誌)での活動からスタートしている
- ちなみに「New Ground」はSNKゲーム系のファンジンで、名前もラテン語の「NEO GEO」を英語に直しただけ
- プレイヤーから「トレジャーのガーヒーっぽい」だの「カプコンのD&D風」と言われているCastle Crashers。Dan Paladinに言わせれば『熱血硬派くにおくん(River City Ransom)』らしい
- Castle CrashersのBGMは全てNewgroundsサイト上で公募されたユーザー投稿楽曲が使用されている。また、Newgroundsの投稿作品には標準でCreative Commons Licenseが付加されるため、Castle Crashersの楽曲もCCLでの二次配布や二次利用が可能。「CCのサントラはCC」というわけだ
参照:
- Gamasutra - Taunting The Behemoth: Tom Fulp and Dan Paladin Cry Out
- The Top 20 LIVE Games of 2008 - Xbox Live's Major Nelson
- Kotaku - Download The Castle Crashers Soundtrack For Free – Soundtrack
- 配信開始から約10ヶ月…。『Castle Crashers』のプレイヤー数が100万人を突破! - Game*Spark
Number None
代表作: Braid [XBLA/PC/Mac]
受賞歴: TIME: Top 10 Video Games - #2 / GameSpot: Best Original Downloadable Console Game
中心人物: Jonathan Blow (デザイナー)
概要:
Game Developer Magazineでの連載や、カンファレンスでの講演、ゲーム制作者イベントのオーガナイザーなど、コラムニスト・研究者として活動しているJonathan Blowが、「理想のゲームデザイン」を具現化する為に自らの手で制作した2Dプラットフォーマー&パズラー『Braid』
売り上げこそ『Castle Crashers』に及ばないものの、作品的な評価は極めて高く、ゲーム雑誌・ゲームサイトのレビューを集計したMetacriticsのメタスコアは[93点] (XBLA歴代1位、360全体でも歴代Top10に入る高得点)。英ガーディアン誌や全米公共ラジオ(NPR)でも紹介され、米TIME誌のGOTYでは『GTA IV』に次ぐ年間第2位に選ばれるなど、ゲーム業界内外の批評家から手放しで絶賛された
Jonathan Blowは「ゲーム開発者が選ぶ開発業界のヒーロー」でも宮本茂やウィル・ライトに混ざって10位にランクイン。批評家だけでなく同業者からも篤い支持を受けている
小ネタ:
- アートワークはウェブコミック作家でありアーティストのDavid Hellmanが担当。サウンドトラックにはMagnatuneレーベルの楽曲を商用利用手続きをして使っている
- 主人公ティムやクリーチャーのオリジナルデザインはそのDavid Hellmanではなく、開発初期に参加していたFLASHアーティストEdmund McMillenが描いたものが元になっている。ちなみにこのMcMillenも、Newgroundsで発表したFLASHゲーム『Meat Boy』でWiiWareデビューの予定
- 『Braid』の作中に登場するメタファー・オマージュ (分かり易い例だと上の動画にも出てくる 「旗」と「お城」と「Princess is in another castle」) の解釈を巡っては、ネット上でも一時期盛り上がっていた。ストーリー全体の解釈としてはFeministe.ukに代表される「男女関係」説や、でかだんびよりさんが訳している「核開発者」説などがある
参照:
- Game Designer Jonathan Blow: What We All Missed About Braid | Games | A.V. Club
- Braid の純潔さ - My Life Between Xbox360 and Beer
- でかだんびより : Dekadenbiyori XBLAゲーム Braid ストーリー考察サイト訳(ネタバレ注意) (※ホントに超ネタバレなので少しでも本作に興味を持った人は読む前にプレイ推奨)
thatgamecompany
代表作: Cloud [PC] flOw [FLASH/PSN/PSP] Flower [PSN]
受賞歴: IGF 2006 Student Showcase (Cloud)
中心人物: Jenova Chen (デザイナー) Kellee Santiago (プロデューサー)
概要:
南カリフォルニア大学(USC)でマルチメディア制作を学んでいたJenova Chenを中心とする学生チームが母体
USCでの学生作品『Cloud』が2006年のIndependent Games Festival(IGF)で賞を獲得、Jenova Chenの制作したFLASH作品『flOw』もほぼ同時期に注目を集めると、出席したGDCでSCEのディレクターにスカウトされ、ゲーム業界へ飛び込んだ
デビュー作となった『flOw』はPSN初の大ヒットコンテンツとなり、後にPSPにも移植。今年の2月にリリースされた『Flower』も3ヶ月連続で米PSNトップのセールスと順調なスタートを切っている
小ネタ:
- SCEとの契約は3作分 (『flOw』『Flower』と、もう1作予定アリ)
- Jenova Chenは一時期、Maxisで『Spore』の開発にも参加していた
- 『Cloud』と『Flower』のコンポーザーVincent Diamanteは、thatgamecompanyでの活動以外にも、コナミUSでモバイルゲームのサウンド、ウェブサイトInsert Creditでライター業、そしてUSCでは非常勤講師(Adjunct Professor)として後進の指導に当たるなど多方面で活躍する俊英。 Insert Creditでは『メルティブラッド』のレビューを書いていたりする
参照:
- 4Gamer.net [GDC07#28]アメリカでは学生出身デベロッパー達が元気
- PS3 FAN || GDC2008:PSNダウンロードトップ10を公開
- 日本の開発者はもっと表に! 米国の若手クリエイターインタビュー:欧米ゲーム事情/ゲーム情報ポータル:ジーパラドットコム
- New Indie Videogame Movement - WSJ.com
2D Boy
World of Goo Trailer 2 Director's Cut
by 2dboy
代表作: World of Goo [WiiWare/PC/Mac/Linux]
受賞歴: IGN: Wii Game of the Year / SpikeTV: Best Independent Game / GameSpot: Best Puzzle Game of 2008 / Game Developer Choice Awards 2008: Best Downloadable Game
中心人物: Kyle Gabler (デザイナー・プログラマー・アーティスト・コンポーザー) Ron Carmel (プログラマー・プロデューサー)
概要:
「毎月1本ゲームを作る+1週間で作る+1人で作る」をテーマに掲げたカーネギーメロン大学の創作活動 Experimental Gameplay Project と、その活動を基にして書かれた論文「How to Prototype a Game in Under 7 Days」の共同執筆者として注目されたKyle Gablerが、卒業後に出会ったRon Carmelと2人で立ち上げたデベロッパー
EGPの制作物である『Tower of Goo』を発展させた『World of Goo』は『Castle Crashers』『Braid』と並んで多くの賞を受賞し、2008年最も注目されたインディータイトルの一つ。Wii版のメタスコア[94点]は『マリオギャラクシー』『ゼルダ・トワプリ』に次ぐWii歴代3位。レビュアーによっては「Wii最高傑作」との声もあるほどで、インディー・DL配信という枠を飛び越え、2008年に最も高く評価されたWiiタイトルとなった
小ネタ:
- Gamasutraに掲載された「How to Prototype a Game in Under 7 Days」の論文にはこれまでに1000件近いDeliciousブックマークが付けられており、その注目度が伺える。2005年の論文ながらWorld of Gooのヒットで再び注目された
- 当初は『Tower of Goo』ではなく、同じEGPで制作した『Big Vine』というゲームをベースにしようと考えられていた
- PC版ではメインプログラムはもちろん、グラフィックもサウンドも全てKyleとRonの二人だけで制作されたWorld of Gooだが、WiiWare版ではもう一人Allan Blomquistというエンジニアが参加している。彼はKyle Gablerの学生時代の友人でEGP参加者。Wiiリモコンへの対応やCPU最適化含め、ほぼ彼一人によって僅か三週間でWorld of GooのWii移植を完成させた
参照:
- 2D Boy's Ron Carmel and Kyle Gabler Interview - Eurogamer
- 4Gamer.net ― [GDC 2009#03]プロとアマの差がなくなった北米インディゲーム開発事情・最前線
- 海外で作られた「World of Goo」というパズルゲーム、不正コピー率は90% – スラッシュドット・ジャパン
- N.O.M 2009年5月号 No.130 : 『グーの惑星』開発スタッフインタビュー
Kloonigames
代表作: Crayon Physics Deluxe [PC/iPhone/iPodTouch]
受賞歴: IGF 2008: Seumas McNally Grand Prize
中心人物: Petri Purho (デザイナー)
概要:
Experimental Gameplay Projectに刺激を受けた大学生のPetri Purhoが、ゲーム制作ブログ「Kloonigames」を開設。2006年9月から1年間、毎月1作品、計12作品のフリーゲーム制作をやり遂げ、『Crayon Physics』はその途上、2007年6月分のフリーゲームとして制作された
『Crayon Physics』を発展させた『Crayon Physics Deluxe』は翌年のIGF 2008で Seumas McNally Grand Prize (最優秀作品賞)を受賞。今年1月からPC版と、ハドソンがパブリッシャーとなったiPhone/iPod Touch版がリリースされている
小ネタ:
- BGMで使われている「Lullaby」(上の動画の曲)はCC Mixterの登録曲
- IGF 2008の作品賞には商業リリース前の『World of Goo』もノミネートされていたが、それを破っての受賞だった。正式版の発売を控え、それまでの道のりを振り返ったエントリでは 「IGFでCrayon Physicsが最優秀作品に選ばれたとき・・・正直ガッカリしたんだ。僕はWorld of Gooが選ばれるべきだと思っていたし、Kyle Gablerは僕にとってアイドルだからね」と受賞を巡る心境を書いている
参照:
- Petri Purho and the Art of Creating a New Game Every Month - Jarkko Laine - Insanely interested
- iPhone/iPod touchゲームレビュー「Crayon Physics Deluxe」
Dylan Fitterer
代表作: Audiosurf [Steam]
受賞歴: IGF 2008: Excellence in Audio & Audience Award / Wired: Best PC Game of 2008 - #1 / IGN: PC Best Music/Rhythm Game
中心人物: Dylan Fitterer (デザイナー・プログラマー)
概要:
一介のプログラマーとして働く傍ら、個人サイトBestGameEverでフリーゲーム制作を続けていたDylan Fittererが、Indie Game Jamへの参加を機に制作した『Audiosurf』
『Audiosurf』がIGF 2008の各部門にノミネートされると、すぐさまVALVeから声が掛かり、受賞を待たずにSteamでの配信が決定。Steam専売タイトルながらWiredの「Best PC Game」に選ばれるなど、PCゲーム配信サービスとして成長するSteamの中でも特筆すべき成功例となっている
小ネタ:
- 「手持ちのオーディオデータを読み取ってオリジナルのステージを生成する」という骨格のアイデアは、日本の「バーコードからオリジナルのモンスターを生み出して戦わせるゲーム(バーコードバトラー?)」からヒントを得ていたらしい
- 『Audiosurf』はデモ版の公開後すぐに大量のプレイ動画がYoutubeにアップされた為、Dylan Fittererも「プロモに頭を悩ませずに済んだ」と語っている
参照:
- 今どきゲーム事情■中村彰憲:洋ゲー最前線:“天才の時代”復活?!デュラン・フィトラーの『Audiosurf』 – iNSIDE
- Interview: Audiosurf creator speaks - PC Gamer Magazine
まとめおわり。 どう?けっこう熱いでしょ?
- 大学・専門学校教育の成果
- ゲーム制作コンテストによる才能の発掘
- 「見る目」を持ったパブリッシャーのケツ持ち
- DL配信プラットフォームの定着
- メディア(ニュース・レビュー)の影響力
- ユーザーコミュニティの成熟
・・・と、こうして軽くまとめてみただけでも、海外の(というか北米の)インディーゲーム制作者を取り巻く環境は恵まれてるなぁと思うわけですが、こういった環境が整備され、商業的・批評的に注目される作品が出てきたのはホントついここ数年の出来事だったりします
2004~2007年にスタートしたXBLAやPSN,Steamに続いて、WiiWare、DSiWare、iPhone Appstoreが出揃ったのはどれも昨年2008年だし、IGFの作品エントリー数も『Alien Hominid(2004)』や『flOw(2006)』が成功する前は今の半分程度だったと言われています(逆に言えばこの3,4年で2倍に増えた)
メタスコア・メタレビューの点数がゲーム購入の指標として顕在化して来たのも、MetacriticsがCNETに買収された2005年以降。
インディーゲーム情報サイトのTIG SourceやIndiegames.comが今の体制になったのもそれぞれ2005,2007年で、これらのサイトをソースとしてKotaku、Destructoid、Joystiqあたりの総合ゲームブログや、Boing Boing、Wired、Ars Technicaといった超大手サイトがインディーゲーム情報を取り上げたり、また独自にインタビューやコラムを載せる様になったのもワリと最近になってからです。
Boing Boingなんか、いまやゲームブログBoing Boing - Off Worldで積極的にインディーゲーム情報を発信する立場に回っているほどですが、そのOff Worldがスタートしたのは昨年11月。まだ1年も経っていません
インディー制作者が抱える一番の課題が「どうやって人に知ってもらうか」だという事を考えると、インディーゲームを扱うメディアが増えた事や、メタレビューの浸透によって、知名度や企業の後ろ盾が無くても純粋に作品の良し悪しで評価される環境が整備されたのは、彼らにとって間違いなく大きな追い風になっています
なお、ちょっと前の某VG占いによると、『World of Goo』の累計売り上げは約2.5億円で、『Castle Crashers』が約10億円。商業ゲームとしては取り立てて驚くような金額ではないですが、彼らの制作規模を考えれば立派な数字ですよね
ウォールストリートジャーナルが「インディーゲーム・ムーヴメント」と呼ぶ現在のインディーゲームシーンの隆盛が、DL配信という新しいプラットフォームの過渡期における現象にすぎないのか。それとも肥大化・固定化した主流ゲームに対するカウンターとして勢力を伸ばすのか――まあ今後どうなるかはともかく、しばらくインディー作家たちの活躍を楽しめる事は間違いなし。
「次の世代の宮本茂はここから生まれる(SCEのRusty Buchert氏)」というのは流石に大袈裟でも、新しい才能・実験的な作品を許容するインディーゲーム・DL配信ゲームの世界は、ゲーム好きならちょっと覗いて見る価値ありますぜ